歯の常識は30年で変わりました|親世代の「当たり前」が今は違う理由|二宮町の歯科医師が解説
「食べたら、すぐ歯を磨きなさい」
「硬いものを食べると、歯が丈夫になる」
「歯ブラシは硬めで、しっかりこする」
「歯医者は、痛くなってから行くところ」
子どもの頃、家でこう教わった方は多いのではないでしょうか。
歯みがきの仕方や食べ方は、学校で習うより先に、家庭の中で受け継がれていく習慣です。いわば、その家の小さな「文化」のようなものです。
ただ、歯についての考え方は、この30年ほどで大きく変わりました。親世代の「当たり前」のなかには、今も正しいものもあれば、今は勧められていないものもあります。
文化の日の今日は、二宮町のはら歯科クリニックから、受け継いできた歯の常識を見直すお話をします。
歯の常識が変わった、3つの理由
1. 歯が「残る」時代になった
80歳で自分の歯が20本以上ある人(8020達成者)の割合は、厚生労働省の歯科疾患実態調査で、
- 2005年:24.1%
- 2024年:61.5%
と、約20年で2.5倍になりました。
歯が長く残るということは、同じ歯を使い続ける年数が延びたということです。かつては歯が早く失われていたため問題になりにくかった、すり減り・ひび・割れが、今は歯を失う原因として目立つようになってきました。
2. 歯を失う原因が変わってきた
公益財団法人8020推進財団が全国の歯科医院で抜いた歯の原因を調べた調査では、
- 2005年:歯が割れた・折れた(破折)ことによる抜歯は11.4%
- 2018年:17.8%
と、割れて抜く歯の割合が増えています。虫歯と歯周病による抜歯の割合は、同じ期間にやや減りました。
報告書では、虫歯や歯周病による抜歯が減ったことに加え、抜歯を受ける年齢が高くなっていることなどが影響したのではないかと推察されています。
3. 道具が変わった
フッ素(フッ化物)入りの歯みがき粉は、日本では1980年代半ばには市場の10%ほどでしたが、2010年には90%、2015年には91%に広がりました(日本口腔衛生学会)。
虫歯の予防手段が変わったことで、歯みがきのやり方そのものにも、変わった点があります。
つまり
親世代の常識の多くは、「虫歯を減らすこと」が最大の目標だった時代の答えです。今は、それに加えて「残った歯を、80年、90年と使い続けること」が目標になりました。目標が変われば、ふさわしいやり方も変わります。
早見表|親世代の「当たり前」と、今の考え方
| 親世代の「当たり前」 | 今の考え方 | ひと言でいうと |
|---|---|---|
| 食べたら、すぐ磨く | 普段の食事なら、食後早めに磨いてよい。酸っぱいものの後は、まず水で口をすすぐ | 半分は今も正しい |
| 硬いものを食べると歯が丈夫になる | 歯は硬いもので強くならない。硬すぎるものは欠け・ひびの原因に | よく噛む ≠ 硬いものを噛む |
| 歯ブラシは硬め、力を入れてこする | やわらかめ〜ふつうを、軽い力で小刻みに | 力より当て方 |
| 血が出たら、そこは磨かない | 出血するところこそ、やさしく丁寧に | 出血は磨き残しのサイン |
| 磨いたら、何度もしっかりすすぐ | フッ素入りなら、すすぎは少量の水で1回程度 | すすぎすぎない |
| 歯医者は、痛くなってから行く | 痛くなる前に、定期的に行く | 治療より予防 |
ここからは、特にご質問の多い3つを詳しく見ていきます。
「食べたらすぐ磨く」は、今も正しいのか
一時期、「食後30分は磨かない」が広まりました
「食後すぐに磨くと歯が溶けるので、30分待ってから磨くべき」という話を、テレビや雑誌で見た方もいらっしゃると思います。
これを受けて、日本歯科保存学会は2013年、日本口腔衛生学会との共催シンポジウムでの議論を踏まえて見解を示しました。要点は次のとおりです。
- 虫歯予防の観点から、これまでどおり食後の早い時間内に磨くことを勧める
- ただし、酸性の強い飲み物などをとった後は、歯の表面が酸で溶ける「酸蝕(さんしょく)」に気をつけて磨く
- 「酸性の飲食物の後は30分間磨くのを避けるべき」ということは、確認できていない
親世代の常識は、半分正しかった
つまり、普段の食事の後は、早めに磨いてかまいません。食べかすと細菌を早く取り除くことが、虫歯予防になります。
気をつけたいのは、酸性の強いものをとった直後です。
- 炭酸飲料、スポーツドリンク
- かんきつ類、酢の物、黒酢などの健康飲料
- ワイン
こうしたものの後は、まず水で口をすすぐか、水を飲む。そのうえで、強くこすらずに磨きましょう。酸で表面がやわらかくなっているところを強くこすると、エナメル質がすり減る原因になります(→強く磨くほど歯が黄色く見える理由)。
「すぐ」より大切な、寝る前の1回
食後すぐに磨けない日があっても、心配しすぎることはありません。いちばん大切なのは、寝る前の1回を丁寧に磨くことです。
眠っている間は唾液がほとんど出なくなり、口の中を洗い流す力も、酸を中和する力も弱まります(→あなたの歯を守っているのは唾液です)。
「硬いものを食べると歯が丈夫になる」の本当のところ
歯は、鍛えても硬くなりません
筋肉や骨は、使えば使うほど強くなります。けれども歯の表面のエナメル質は、一度できあがると、硬いものを噛むことで強くなることはありません。
むしろ、硬すぎるものを噛み続けると、
- 歯の先が欠ける
- 目に見えないひびが入る
- 歯がすり減る
- 詰め物・被せ物が外れる・割れる
といったことが起きやすくなります。
「よく噛む」と「硬いものを噛む」は別のこと
よく噛むこと自体は、とても大切です。唾液がたくさん出て、口の中をきれいに保ち、食べ物の消化も助けます。
ただ、それはふつうの食べ物を、回数多く噛むということです。歯にとって負担が大きいのは、次のようなものです。
- 氷をかみ砕く
- 飴を最後までかみ砕く
- 硬いせんべい、ナッツ、乾き物を毎日のように食べる
- 梅干しの種や、魚の骨を噛む
- 栓抜きやハサミの代わりに歯を使う
神経をとった歯は、とくに割れやすい
8020推進財団の調査では、割れて抜いた歯の割合は、
- 神経が残っている歯:2.8%
- 神経をとった歯:26.5%
と、大きな差がありました。神経をとった歯は、根の中の治療で歯の量が減っていることも多く、強い力がかかると割れやすくなります。
「この歯は神経をとってある」とわかっている方は、その歯で硬いものを噛まない工夫をしてください。
硬いもの以上に歯に負担をかけるもの
実は、食事よりも長い時間、歯に力をかけているのが食いしばりです。日中の無意識の食いしばりについては(→上下の歯、今くっついていませんか?)、夜の歯ぎしりについては(→歯ぎしり・食いしばりは放置しないで)をご覧ください。当院では、就寝時に歯を守るマウスピース(ナイトガード)を作製しています。
「歯医者は痛くなってから」から「痛くなる前に」へ
この30年でいちばん大きく変わったのは、歯科医院の使い方かもしれません。
虫歯も歯周病も、痛みが出るころには、かなり進んでいることの多い病気です。痛くなってから治療を始めると、削る量や、神経をとる歯が増えていきます。そして、神経をとった歯は割れやすくなる——という流れは、先ほどの調査のとおりです。
痛くなる前に通い、削らずにすむうちに手を打つ。これが、今の歯科の基本的な考え方です。
ご家族に歯医者をすすめても、なかなか行ってくれない——という方は、こちらの記事も参考にしてください(→親に「歯医者に行って」と言っても行かない理由)。
そのほかにも、変わったこと
歯みがき粉の「すすぎ」
2023年に日本口腔衛生学会など4学会が示した方法では、6歳以上はフッ素濃度1,400〜1,500ppmの歯みがき粉を使い、磨いた後は少量の水で1回程度すすぐことが勧められています。何度もすすぐと、せっかくのフッ素が流れてしまうためです。フッ素については、あらためて詳しくご紹介します。
「虫歯は親からうつる」
赤ちゃんとの食器の共有についても、2023年に日本小児歯科学会が考え方を示しています(→スプーンを分けても虫歯は防げません)。
常識は「否定」ではなく「更新」するもの
親世代の常識は、その時代にわかっていたことにもとづく、精いっぱいの答えでした。「食べたらすぐ磨く」のように、今でも大切なものもたくさんあります。
大切なのは、受け継いだ習慣を、いまの知識で少しずつ更新していくことです。そして、お子さんやお孫さんに伝えるときは、更新した形で手渡していくこと。
とはいえ、歯の情報は日々更新されていきます。何が今の考え方なのかを、ご自身で追いかけ続けるのは大変です。定期検診は、歯を診てもらうだけでなく、ご自分の習慣が今の考え方に合っているかを確かめる場所として使ってください。
二宮町・はら歯科クリニックでの取り組み
当院では、定期検診とクリーニングを保険診療で行っています。歯科衛生士が常駐しており、お口の状態に合わせて、磨き方や歯ブラシの選び方をアドバイスしています。
「歯ブラシはずっと硬めを使っている」「歯みがき粉は何を選べばいい?」「硬いものが好きで、よく噛んでいる」——昔からこうしてきた、ということほど、一度ご相談ください。
定期検診を兼ねたクリーニングの窓口負担は、3割負担の方で3,000円程度が目安です(お口の状態や検査内容によって変わります)。
二宮町・大磯町・平塚市からもご来院いただいています。
まとめ
- 歯の常識が変わったのは、歯が長く残る時代になったから
- 8020達成者は、2005年の24.1%から2024年には61.5%に
- 歯が長く残る一方で、割れて抜く歯の割合が増えている
- 「食べたらすぐ磨く」は、普段の食事なら今も正しい。酸っぱいものの後は、まず水ですすぐ
- 歯は硬いもので強くならない。「よく噛む」と「硬いものを噛む」は別
- 神経をとった歯は、とくに割れやすい
- 歯ブラシはやわらかめ〜ふつうを、軽い力で
- 歯医者は、痛くなる前に行くところ
受け継いだ習慣は、否定せずに、更新する。その更新の場所として、定期検診をお使いください。
関連ページ
- 強く磨くほど歯が黄色く見える理由 — 力を入れて磨くと何が起きるか
- あなたの歯を守っているのは唾液です — 寝る前の1回が大切な理由
- スプーンを分けても虫歯は防げません — もうひとつの「変わった常識」
- 予防・定期検診 — 当院の定期検診とクリーニング
はら歯科クリニック(神奈川県中郡二宮町・二宮駅から徒歩2分)
予防歯科・義歯治療・ホワイトニング
診療時間:火〜金 9:00〜13:00/14:00〜17:00(最終受付16:30)、土 9:00〜14:00(最終受付13:30)
休診日:日・月・祝
ご注意(禁忌・留意事項)
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の診断・治療を推奨するものではありません。
※歯みがきの方法や適した歯ブラシは、お口の状態によって異なります。歯ぐきの病気や知覚過敏、矯正装置・入れ歯などがある方は、歯科で個別にご相談ください。
※酸蝕症が心配な方、胃酸が上がってくる症状(逆流性食道炎など)がある方は、受診時にお知らせください。
※フッ素入り歯みがき粉は、年齢ごとに推奨される濃度と使用量が定められています。6歳未満のお子さまには、年齢に合った濃度・量のものをお使いください。
※歯のひびや破折は、外から見てわからないことがあります。噛むと痛む、冷たいものがしみるなどの症状があれば、早めに受診してください。
※調査の数値は、全国調査・全国の歯科医院を対象とした調査の結果であり、個人の歯の状態を示すものではありません。
※窓口負担の金額は目安です。検査内容・お口の状態・負担割合によって変わります。
参考文献
- 厚生労働省「平成17年 歯科疾患実態調査」「令和6年 歯科疾患実態調査 結果の概要」
- 公益財団法人8020推進財団「第2回 永久歯の抜歯原因調査報告書」(2018年)
- 日本歯科保存学会「『食後30分間は歯みがきを避けること』についての見解」(2013年)
- 日本口腔衛生学会 フッ化物応用委員会「フッ化物配合歯磨剤に関する日本口腔衛生学会の考え方」
- 日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会「4学会合同のフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法」(2023年)
