歯は「28本でひとつの器官」です|1本失うと何が起きるか|二宮町の歯科医師が解説
敬老の日は、ご家族が久しぶりに顔を合わせる機会でもあります。食卓を一緒に囲んだとき、こんな場面に心当たりはないでしょうか。
「お父さん、前より食べるのが遅くなった気がする」
「おばあちゃん、硬いものだけ残していた」
「いつも同じ側でばかり噛んでいる」
——どれも、ご本人はあまり気にしていないことが多い変化です。
そして多くの場合、その背景には「歯が何本かない状態を、そのままにしている」ことがあります。二宮町のはら歯科クリニックでは、こうしたご家族からのご相談を受けることが少なくありません。
今回は、歯を1本単位ではなく、全体でひとつの器官として見るという視点をお伝えします。
歯は「28個の部品」ではありません
互いに支え合って位置が決まっている
親知らずを除くと、永久歯は28本あります。私たちはつい、歯を28個の独立した部品のように考えてしまいます。「1本ダメになっても、27本ある」と。
しかし実際には、歯は互いに支え合うことで、今の位置に留まっています。
- 隣の歯と接することで、前後に倒れないよう支え合っている
- 噛み合う相手の歯とぶつかることで、それ以上伸びないよう止まっている
つまり、1本1本の位置は、周りの歯があって初めて成り立っています。橋やアーチのような構造だと考えていただくと近いかもしれません。
1本抜けると、支えが2方向で失われる
歯を1本失うと、その場所に空間ができます。すると、
- 隣の歯は、支えを失った側に少しずつ傾いていきます
- 噛み合っていた相手の歯は、止めるものがなくなり、少しずつ伸びてきます(挺出)
これはゆっくり進むため、ご本人はほとんど自覚しません。1年、2年という単位で、静かに起こります。
「奥歯1本くらい」が最も放置されます
見えない・痛くない・噛めてしまう
前歯を失えば、誰でもすぐに治療を考えます。見た目に直結するからです。
ところが奥歯の場合、
- 鏡で見えない
- 痛みがない
- 反対側や他の歯で噛めてしまう
という三拍子が揃うため、「不便ではないから、このままでいい」となりやすいのです。
しかし、噛む力を最も強く負担しているのは奥歯です。もっとも失って困る歯が、もっとも放置されやすい——これが実際に起きていることです。
残った歯に負担が集中する
1本分の仕事は消えてなくなるわけではありません。残った歯が肩代わりします。
もともと10人で持っていた荷物を9人で持てば、1人あたりの負担は増えます。負担が増えた歯は、
- 割れやすくなる
- 歯根の周りの骨が痩せやすくなる
- 詰め物・被せ物が外れやすくなる
という状態になります。こうして次の1本が失われるという流れができてしまいます。
片側だけで噛む癖がつく
噛みにくい側を無意識に避けると、反対側だけを使うようになります。片側だけを使い続けると、その側の歯と顎関節への負担が偏り、顎の痛みや、さらなる歯のトラブルにつながることがあります。
噛めないことは、食卓の変化として現れます
「食べられないもの」ではなく「食べなくなったもの」
噛む力が落ちたとき、多くの方は「食べられない」とは言いません。自然と、食べなくなります。
- 肉より、煮魚や卵を選ぶようになる
- ごぼう、れんこん、たけのこを取らなくなる
- りんごを丸かじりしなくなる
- 食事の時間が長くなる、または逆に噛まずに飲み込むようになる
ご本人は「好みが変わった」「歳だから」と説明されることがほとんどです。
柔らかいものに偏ると、栄養も偏りやすい
柔らかく食べやすい食品は、炭水化物に寄りやすい傾向があります。一方、肉・魚・野菜には噛む力を必要とするものが多く、これらが減ると、たんぱく質やビタミン、食物繊維が不足しやすくなります。
口の働きの低下が、食事内容の変化を通じて全身の健康に影響しうることは、オーラルフレイルという言葉で近年広く知られるようになりました。
「噛めるかどうか」は、口の中だけの問題ではないということです。
ご家族が食卓で確認できるポイント
ご本人に「歯は大丈夫?」と尋ねても、たいていは「大丈夫」と返ってきます。言葉ではなく、様子を見るほうが確実です。
- 硬いものだけを残していないか
- いつも同じ側で噛んでいないか
- 食事中や飲み物でむせることが増えていないか
- 食べる速度が以前より落ちていないか
- 話すときに発音が聞き取りにくくなっていないか
- 入れ歯を外している時間が増えていないか
ひとつでも当てはまるようであれば、一度歯科でご相談いただく価値があります。
入れ歯を「作ったまま」にしていませんか
口の中は変化し続けます
歯を失った後の顎の骨は、時間とともに少しずつ形が変わっていきます。そのため、作った当初はぴったりだった入れ歯も、数年経てば合わなくなっていくのが普通です。
合わない入れ歯を使い続けると、
- 噛む力が出ず、結局やわらかいものばかりになる
- 粘膜に傷や痛みが出る
- 外している時間が増え、さらに噛めなくなる
という流れになりがちです。
「作り直し」だけが選択肢ではありません
合わないと感じた場合でも、必ずしも新しく作り直す必要があるとは限りません。調整や裏側の材料の入れ替え(リライン)で改善することもあります。
「もう古いから」と諦める前に、一度見せていただきたいというのが、私たちの率直なお願いです。
二宮町・はら歯科クリニックでの取り組み
当院は義歯(入れ歯)治療を診療の柱のひとつとしています。そのうえで大切にしているのは、1本を治すことではなく、噛み合わせ全体をどう保つかという視点です。
- 失った歯をどう補うか(入れ歯・ブリッジなど)
- 残っている歯にどう負担を分散させるか
- どこまで手を入れ、どこは様子を見るか
これらはすべて、お口全体を見なければ判断できません。ご高齢の方の場合は、通院の負担やご家族の付き添いの都合も含めてご相談に応じます。
ご本人が乗り気でない場合、まずはご家族だけでご相談にお越しいただいても構いません。二宮町・大磯町・平塚市からご来院いただいています。
まとめ
- 歯は28個の独立した部品ではなく、互いに支え合うひとつの構造
- 1本失うと、隣の歯は傾き、噛み合う相手の歯は伸びてくる
- 見えず・痛まず・噛めてしまう奥歯こそ、最も放置されやすい
- 残った歯に負担が集中し、次の1本を失う流れができる
- 噛む力の低下は「食べなくなったもの」として食卓に現れる
- ご家族は言葉ではなく、食事の様子から気づける
- 入れ歯は作って終わりではなく、合わせ続けるもの
敬老の日に、ご家族の食卓を少しだけ観察してみてください。「最近、あれを食べなくなったな」は、立派なサインです。
はら歯科クリニック(神奈川県中郡二宮町・二宮駅から徒歩2分)
予防歯科・義歯治療・ホワイトニング
診療時間:火〜金 9:00〜13:00/14:00〜17:00(最終受付16:30)、土 9:00〜15:00(最終受付14:30)
休診日:日・月・祝
ご注意(禁忌・留意事項)
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の診断・治療を推奨するものではありません。
※歯の移動や噛み合わせの変化の程度・速さには個人差があり、すべての方に同じ経過が生じるわけではありません。
※治療方法(入れ歯・ブリッジ等)の適応は、残っている歯や顎の骨の状態により異なります。診察のうえで判断いたします。
※入れ歯の調整・リラインで改善しない場合もあります。効果には個人差があります。
※心疾患・糖尿病など全身疾患のある方、抗血栓薬・骨粗鬆症治療薬を服用中の方は、処置の内容や時期に制限が生じる場合があります。事前に必ずお申し出ください。
※むせる・飲み込みにくいなどの症状が続く場合は、嚥下機能の評価が必要なことがあります。医科との連携をご提案する場合があります。
※費用は診療内容・材料により変動します。自費診療には保険が適用されません。
参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「オーラルフレイル」「口腔機能低下症」
- 日本老年歯科医学会「オーラルフレイルに関する学会見解論文」
- 公益財団法人 8020推進財団「永久歯の抜歯原因調査」
- 厚生労働省「歯科疾患実態調査」
