力を入れる瞬間、歯は削られています|上下の歯は「くっついていない」のが正常|二宮町の歯科医師が解説
この記事を読んでいる今、上下の歯は触れていますか?
「軽く噛み合っている」と答えた方は、少なくないはずです。実はそれが、この記事のテーマです。
今日はスポーツの日。重いものを持ち上げる瞬間、ボールを打つ瞬間、ゴルフのスイング——力を出すとき、人は無意識に歯を食いしばります。そして、スポーツをしていない日常の中にも、同じことが起きています。
二宮町のはら歯科クリニックでは、歯のすり減りやひびの原因をたどると、日中の食いしばりに行き着く方が少なくありません。夜の歯ぎしりは気にしていても、昼間の食いしばりは見落とされがちです。
上下の歯は「離れている」のが正常です
歯が触れているのは、1日20分ほど
意外に思われるかもしれませんが、上下の歯が接触している時間は、1日の合計で20分程度とされています。食べ物を噛むときと、飲み込むときの一瞬だけです。
それ以外の時間、つまり会話をしているとき、何もしていないとき、上下の歯の間には2〜3mmほどのすき間があるのが、本来の状態です。
- 唇は閉じている
- 歯は離れている
- 舌は上あごに軽く触れている
これが、あごと歯にとっていちばん楽な「安静の位置」です。
「軽く触れている」だけでも負担になる
食いしばりというと、ギュッと強く噛みしめることを想像しがちです。ところが、上下の歯が軽く触れている状態が長時間続くだけでも、あごの筋肉は休まらず、歯や歯を支える組織に負担がかかり続けます。
このように、無意識に上下の歯を触れさせている癖は、TCH(歯列接触癖)と呼ばれています。本人に自覚がないことが多く、「自分は食いしばっていない」と思っている方にも見られます。
力を出す瞬間に、何が起きているか
歯には、体重ほどの力がかかることも
重いものを持ち上げる、踏ん張る、ボールを打つ——こうした瞬間の食いしばりでは、奥歯に自分の体重ほどの力がかかることもあるといわれます。
食事で噛むときは、食べ物がクッションになります。ところが食いしばりでは、歯と歯が直接ぶつかり合うため、力がそのまま歯に伝わります。
食いしばりやすい場面
スポーツ
- 重量挙げ、筋力トレーニング
- ゴルフ、野球のバッティング、テニスのショット
- 投てき、短距離走のスタート
いずれも瞬間的に大きな力を出す動きです。力を出すときに食いしばるのは自然な反応ですが、練習で何百回と繰り返せば、それだけ歯に負担がかかります。
日常生活
- パソコン作業やスマートフォンに集中しているとき
- 車の運転中
- 重い荷物を持つ、家事や仕事の力作業
- 緊張しているとき、考えごとをしているとき
日常の食いしばりは、1回の力は小さくても、時間が長いのが特徴です。
食いしばりが続くと、歯に起きること
| 起きること | 理由 |
|---|---|
| 歯がすり減る | 歯と歯が直接こすれ合い、噛み合う面が平らになっていく |
| 歯が黄色く見えてくる | すり減ってエナメル質が薄くなり、内側の黄色が透けやすくなる |
| 歯にひびが入る・欠ける | 繰り返しの力で、目に見えない細かいひびが広がる |
| 詰め物・被せ物が外れる、割れる | 人工物と歯の境目に力が集中する |
| 冷たいものがしみる | 歯の根元がくさび形に欠け、象牙質が出てくる |
| あごが疲れる・口が開きにくい | あごの筋肉が休まらない |
| 頭痛・肩こり | 噛む筋肉の緊張が、周囲の筋肉に広がる |
2つ目の「黄色く見えてくる」は、意外に思われるかもしれません。歯の色は、半透明のエナメル質を通して内側の黄色が透けた色です。すり減ってエナメル質が薄くなると、それだけ黄色く見えるようになります。詳しくは昨日の記事でお伝えしています。
神経を取った歯は、もろくなっているうえに痛みを感じにくいため、ひびが進んでも気づきにくく、注意が必要です。
自分で気づけるサイン
食いしばりは無意識に起こるため、体に残る跡から気づくのが近道です。鏡で確認してみてください。
- 舌のふちに、歯の跡がギザギザについている
- 頬の内側に、白い線が横に走っている(奥歯の噛み合わせの高さあたり)
- 奥歯の噛み合わせの面が平らにすり減っている
- 朝起きたとき、または夕方にあごがだるい
- 歯ぐきの内側や上あごの真ん中に、骨のようなかたい盛り上がりがある
- 冷たいものがしみる歯がある
ひとつでも当てはまる方は、日中にも食いしばっている可能性があります。
今日からできる「歯を離す」習慣
TCHは癖なので、意識すること自体が改善の第一歩になります。気合いで我慢するのではなく、思い出すきっかけを生活の中に置くのがコツです。
1. 「歯を離す」と書いて貼る
パソコンのモニターの端、冷蔵庫、車のダッシュボードなど、よく目に入る場所に、付箋で「歯を離す」と書いて貼ります。
2. 目に入ったら、3つだけ確認する
- 上下の歯が触れていたら、そっと離す
- 肩の力を抜いて、鼻から息を吸う
- 唇は閉じたまま、舌を上あごに軽くつける
これを1日に何十回も繰り返すうちに、「触れていると気づく」感覚が育っていきます。数週間ほど続けると、気づく回数が増え、触れている時間が減っていくことが多いとされています。
3. スポーツのときは「力を抜く瞬間」をつくる
力を出す瞬間の食いしばりは、ある程度は自然な反応です。大切なのは、力を出した後に、歯を離して力を抜くことです。
- セットの合間、ショットの合間に、口を軽く開けて息を吐く
- 練習の前後に、あごを軽く動かしてほぐす
ずっと噛みしめ続けないことを意識するだけでも、歯への負担は変わります。
4. 接触のあるスポーツは、マウスガードを
ラグビーやボクシング、空手、ラクロスなど、接触や衝撃のあるスポーツでは、マウスガードが歯や口の中のけがを防ぎます。競技によっては装着が義務づけられているものもあります。
市販品にはお湯でやわらかくして合わせるタイプがありますが、合っていないものは外れやすく、呼吸や会話の妨げになることがあります。使い始めてから噛み合わせやあごに違和感が出た場合は、無理に使い続けずに歯科医院でご相談ください。
夜の歯ぎしりは、別の対策が必要です
ここまでお伝えしたのは、主に起きているときの食いしばりです。
寝ている間の歯ぎしり・食いしばりは、意識で止めることができません。就寝中の対策としては、ナイトガード(マウスピース)で歯を守る方法があります。詳しくは歯ぎしり・食いしばりの記事をご覧ください。
こんな場合は、早めに受診を
- 歯が欠けた、ひびが入っている気がする
- 詰め物・被せ物がよく外れる
- 冷たいものがしみる歯が増えてきた
- あごが痛い、口が開きにくい、口を開けるとカクカク音がする
- 朝起きたときの頭痛やあごのだるさが続く
ひびや欠けは、小さいうちなら最小限の処置で済むことが多いのですが、進むと神経の治療や抜歯が必要になることもあります。
二宮町・はら歯科クリニックでの取り組み
当院の定期検診では、虫歯や歯ぐきの状態だけでなく、
- 歯のすり減り方
- 細かいひび
- 詰め物・被せ物の欠けや浮き
- 舌や頬の内側の食いしばりの跡
も確認しています。食いしばりの癖は、ご本人より先に歯や口の中に跡が残ることが多いからです。
必要に応じて、日中の習慣のアドバイスや、就寝時のナイトガードをご提案します。「自分が食いしばっているか分からない」というご相談だけでも構いません。二宮町・大磯町・平塚市からもご来院いただいています。
まとめ
- 上下の歯は、本来離れているのが正常。接触は1日20分程度とされる
- 軽く触れているだけでも、長時間続けば負担になる(TCH)
- 力を出す瞬間の食いしばりでは、奥歯に体重ほどの力がかかることも
- 続くと、すり減り・ひび・詰め物の脱離・しみる・あごの疲れにつながる
- すり減ってエナメル質が薄くなると、歯が黄色く見えてくることもある
- 舌や頬の跡、平らになった奥歯は、食いしばりのサイン
- 「歯を離す」の付箋で、思い出すきっかけをつくる
唇は閉じて、歯は離す。今この瞬間から始められる、歯を守る習慣です。
関連ページ
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診療時間:火〜金 9:00〜13:00/14:00〜17:00(最終受付16:30)、土 9:00〜15:00(最終受付14:30)
休診日:日・月・祝
ご注意(禁忌・留意事項)
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の診断・治療を推奨するものではありません。
※食いしばりの程度や原因、改善までの期間には個人差があります。癖の改善だけで症状が治まらない場合もあります。
※あごの痛みが強い、口が開かない、症状が悪化している場合は、自己判断で様子を見ずに受診してください。顎関節症の治療が必要な場合があります。
※市販のマウスピースを長期間使用すると、噛み合わせが変わることがあります。違和感がある場合は使用を中止し、ご相談ください。
※スポーツ用マウスガードの装着規定は競技・大会によって異なります。所属団体の規則をご確認ください。
※頭痛・肩こりには、食いしばり以外の原因(全身の病気など)が関わっていることがあります。症状が続く場合は医科の受診もご検討ください。
※ご自身で歯を削ったり、噛み合わせを調整したりしないでください。
参考文献
- 日本顎関節学会「顎関節症治療の指針」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「顎関節症」
- 日本スポーツ歯科医学会「スポーツマウスガードに関する見解」
- 日本補綴歯科学会「ブラキシズムの診療ガイドライン」
