「むせる」のは歳のせいではありません|二宮町の歯科医師が解説
「最近、お茶を飲むとむせる」
「食事の途中でせき込むことが増えた」
「本人は『歳だから』と言っている」
——連休でご家族と食卓を囲んで、こうした場面に気づかれた方もいらっしゃるかもしれません。
むせることは、年齢のせいにされやすい変化です。しかし実際には、噛む力・舌の力・唾液の量といった、口の働きの低下が関わっていることがあります。そして口の働きであれば、歯科で対応できる部分があります。
二宮町のはら歯科クリニックから、「むせ」を口の側から見た話をお伝えします。
飲み込みは、思っているより複雑な動作です
私たちは無意識に飲み込んでいますが、その中身は多くの段階に分かれています。
1. 噛んで、ひとかたまりにする
食べ物を噛み砕き、唾液と混ぜて、飲み込みやすいひとかたまり(食塊)にまとめます。
2. 舌で喉へ送る
舌が食塊を持ち上げ、喉の奥へ押し込みます。舌は筋肉の塊で、送り出す力を担っています。
3. 気管の入口が閉じる
飲み込む瞬間、喉の弁(喉頭蓋)が気管の入口にふたをします。ここで食道側にだけ通り道が開きます。
4. 食道へ送られる
この一連の流れは1秒に満たない時間で起こります。どの段階がうまくいかなくても、むせは起こります。
口の働きが落ちると、なぜむせるのか
噛めないと、まとまらない
歯が足りない、合わない入れ歯を使っている、噛む力が落ちている——こうした状態では、食べ物が十分に砕けず、ひとかたまりになりません。
まとまっていない食べ物は、ばらけたまま喉へ落ちていきます。ばらけた粒が気管側へ入りやすくなるため、むせが起こりやすくなります。
唾液が減ると、まとまらない
食塊をまとめる接着剤の役割をしているのが唾液です。唾液が少ないと、いくら噛んでもパサついたままになります。
「水がないと食事が進まない」という方は、この状態に近いことがあります。
舌の力が落ちると、送り込めない
舌も筋肉です。使わなければ衰えます。やわらかいものばかり食べていると、噛む回数も舌の動きも減っていきます。
タイミングがずれる
年齢とともに、飲み込む反射が起こるまでの時間がわずかに遅れることがあると報告されています。弁が閉じる前に食べ物が到達すると、気管側へ入ってしまいます。
むせが続くことのリスク
誤嚥性肺炎
食べ物や唾液が誤って気管に入ることを誤嚥(ごえん)といいます。このとき、口の中の細菌も一緒に入り込みます。
高齢の方の肺炎では、この誤嚥が関与しているものが多いと報告されています。つまり、
口の中の細菌が少ない状態を保つことは、肺炎のリスクを下げることにつながります。
歯科の口腔ケアが、肺の話に関係してくるのはこのためです。
気づかれにくい「むせないタイプ」
注意が必要なのは、むせずに気管へ入ってしまう場合です。せき込む反射そのものが弱まると、本人も家族も気づきません。
- 食後に声がガラガラする
- 食事のあと、痰がからむ
- 微熱を繰り返す
こうした様子は、むせの代わりのサインになることがあります。
食事量が減る
むせるのが不安で、食べる量が減ったり、食事そのものを楽しめなくなったりすることがあります。ここから体重減少や体力低下につながっていきます。
ご家族が確認できるポイント
- 水やお茶など、さらさらした液体でむせる
- 食事に以前より時間がかかる
- 食後に声が変わる、痰がからむ
- 硬いものを避けるようになった
- 食べこぼしが増えた
- 口の中に食べ物が残っている
- 原因のはっきりしない発熱を繰り返す
- 体重が減ってきた
複数当てはまる場合、また発熱や体重減少がある場合は、早めの受診をおすすめします。
家庭でできる工夫
いずれも簡単なことですが、効果があります。
1. 姿勢を整える
椅子に深く座り、足を床につけ、少し顎を引く。顎が上がった状態は、気管への通り道が開きやすくなります。ベッド上で食事をされる場合も、上体を起こすことが大切です。
2. 一口の量を減らす
大きな一口は、まとめるのも送るのも負担です。スプーンを小さくするだけで変わることがあります。
3. 急がない、ながら食べをしない
テレビを見ながら、話しながらの食事はむせやすくなります。飲み込んでから次の一口を意識してください。
4. さらさらした液体に注意する
水やお茶は、実は最もむせやすい形状です。とろみをつけると飲み込みやすくなりますが、とろみの程度は人によって適切な範囲が異なります。自己判断で濃くしすぎると、かえって喉に残ることがあります。必要な場合はご相談ください。
5. 食前に口を動かす
食事の前に、唾液腺マッサージや、口・舌を大きく動かす運動を30秒ほど行うと、準備が整います。
6. 食後に口の中をきれいにする
誤嚥するとしても、口の中の細菌が少なければリスクは下がります。食後の清掃、入れ歯の洗浄は、肺を守る行為でもあります。就寝前は特に丁寧に。
歯科でできること
噛める状態に戻す
これが歯科の中心的な役割です。
- 失った歯を補う(入れ歯・ブリッジなど)
- 合わなくなった入れ歯を調整する、または作り直す
- 痛みで噛めない箇所を治療する
「噛める」が戻ると、食塊が作れるようになります。
口腔ケア
歯・歯ぐき・舌・入れ歯の清掃を専門的に行い、口の中の細菌量を減らします。ご自身での清掃が難しい方には、ご家族への方法のご説明も行います。
口の機能の確認
舌の動き、唇の閉じる力、噛む力、唾液の量などを確認し、必要に応じて訓練をご提案します。
医科との連携
むせの原因が、口の働き以外にある場合もあります。脳血管障害の後遺症、神経の病気、薬の影響などです。
歯科の範囲を超えると判断した場合は、耳鼻咽喉科やリハビリテーション科、かかりつけ内科へおつなぎします。歯科だけで完結させようとはいたしません。
まとめ
- むせは年齢のせいだけではなく、口の働きの低下が関わっていることがある
- 噛めない・唾液が少ない・舌の力が落ちると、食塊がまとまらずむせやすくなる
- むせずに気管へ入る場合もあり、声のかすれや繰り返す微熱がサインになる
- 誤嚥時に入る細菌の量は、口腔ケアで減らせる
- 姿勢・一口量・食べる速さの工夫だけでも変わる
- 噛める状態に戻すことは、歯科が担当できる領域
- 原因が口以外にある場合は、医科と連携する
「歳だから」で終わらせず、一度確認してみてください。
はら歯科クリニック(神奈川県中郡二宮町・二宮駅から徒歩2分)
予防歯科・義歯治療・ホワイトニング
診療時間:火〜金 9:00〜13:00/14:00〜17:00(最終受付16:30)、土 9:00〜15:00(最終受付14:30)
休診日:日・月・祝
ご注意(禁忌・留意事項)
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の診断・治療を推奨するものではありません。
※むせが頻繁にある方、発熱・体重減少を伴う方は、自己判断で様子を見ず、医療機関を受診してください。
※嚥下の障害は、脳血管障害・神経疾患・薬剤の影響など、歯科以外の原因で生じることがあります。原因の特定には医科での評価が必要な場合があります。
※とろみ剤の使用は、濃度が適切でないとかえって誤嚥や喉への残留を招くことがあります。自己判断で調整せず、専門職にご相談ください。
※口腔機能訓練の効果には個人差があり、すべての方に改善が得られるわけではありません。
※発熱・呼吸が苦しい・意識がはっきりしないなどの症状がある場合は、歯科ではなく速やかに医科を受診してください。
※誤嚥した直後に強くせき込めない、息ができない場合は、直ちに救急要請(119番)を行ってください。
参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「オーラルフレイル」「口腔機能低下症」
- 日本老年歯科医学会「口腔機能低下症に関する基本的な考え方」
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「嚥下調整食分類」
- 日本呼吸器学会「成人肺炎診療ガイドライン」
