予防を勧めるほど、歯科医院の収入は減ります|それでも私たちが予防を勧める理由
「歯医者は儲けたいから、余計な治療を勧めるのでは?」
「定期検診に来いと言うのも、結局は集客のためでしょう?」
口には出さなくても、心のどこかでそう思ったことがある方は少なくないと思います。
その疑いは、決して失礼なものではありません。医療とお金の関係は見えにくく、患者さんが不信感を持つのは自然なことです。
だからこそ今回は、歯科医院の収益構造について正直にお話しします。
先に結論をお伝えします
予防に力を入れれば入れるほど、歯科医院の収入は減ります。これは建前ではなく、制度上そうなっているという事実です。
なぜそうなるのか。そして、それでもなぜ私たちが予防を勧めるのか。二宮町のはら歯科クリニックからお話しします。
歯科の収入は「治療した分だけ」入る
出来高払いという仕組み
日本の保険診療は「出来高払い」です。行った処置ごとに点数が決まっていて、その合計が医院の収入になります。1点=10円で、全国一律です。
つまり、何かをすれば収入になり、何も起きなければ収入にならないということです。
何に点数がつき、何につかないのか
| 点数がつくもの(収入になる) | 点数がつかないもの |
|---|---|
| 虫歯を削って詰める | 虫歯にならなかった |
| 神経を取る治療をする | 神経を残せた |
| 歯を抜いて入れ歯を作る | 歯を残せた |
| 被せ物を入れる | 治療が不要だった |
右の列を見てください。患者さんにとって最も望ましい結果ほど、医院の収入にならないという構造になっています。
ここに、歯科医療の根本的なねじれがあります。
10年後を比べてみると
具体的に考えてみましょう。定期検診に通い始めた患者さんの10年間を、2つのパターンで比較します。
パターンA:予防がうまくいった場合
3〜6ヶ月ごとにクリーニングを受け、歯みがき指導を受け、生活習慣も改善した。結果、10年間ひとつも虫歯ができませんでした。
患者さんにとっては最高の結果です。歯を削られることも、痛い思いをすることもなく、自分の歯がすべて残っています。
パターンB:予防がうまくいかなかった場合
虫歯が何本もでき、神経を取る治療をして、被せ物を入れて、やがて何本かは抜歯になった。入れ歯やインプラントが必要になりました。
医院の収入で見ると
| 10年後 | A:予防が成功 | B:治療を繰り返した |
|---|---|---|
| 患者さんの歯 | すべて自分の歯 | 数本を失う |
| 通院回数 | 年2〜4回 | 年に何十回のことも |
| 患者さんの負担 | 10万〜16万円 | 数十万円〜(自費なら100万円超も) |
| 医院の収入 | 少ない | 多い |
※金額は保険診療・3割負担の窓口負担の目安です。医院が受け取る額は保険から支払われる分を含めてこれより大きくなりますが、AとBの差が生まれる構造は変わりません。
私たちが仕事を成功させるほど、経営的には不利になる。
これが歯科の収益構造です。
「予防は儲かる」は本当か
「そうは言っても、定期検診の患者さんをたくさん集めれば儲かるのでは」と思われるかもしれません。
たしかに、予防中心の医院経営は成り立ちます。ただし、それは治療中心の医院より儲かるという意味ではありません。
理由1:単価が低い
定期検診1回の点数は、治療に比べてはるかに低く設定されています。
同じ1時間の診療枠を使っても、治療をした場合と予防をした場合とでは、収入に大きな差が出ます。診療イスの数と時間には限りがあるため、この差はそのまま経営に響きます。
理由2:人件費が高い
クリーニングやブラッシング指導は、歯科衛生士という国家資格を持つ人が行います。
予防に力を入れるということは、衛生士を多く雇うということです。人件費は確実に増えます。
つまり、こういう構造です
| 項目 | 治療中心の経営 | 予防中心の経営 |
|---|---|---|
| 1回の単価 | 高い | 低い |
| 必要な人件費 | 相対的に少ない | 有資格者が多く必要 |
| 短期の収益 | 大きい | 小さい |
| 通院期間 | 治れば終わり | 10年、20年と続く |
低い単価で、人件費の高い業務を行う。これが予防歯科の経済的な実態です。
「予防をやっている医院は良心的」というより、「良心的でなければ続けられない」というのが正直なところかもしれません。
それでも予防を勧める、3つの理由
では、なぜ私たちは予防を勧めるのでしょうか。きれいごとに聞こえないよう、正直にお話しします。
理由1:治療を繰り返した先に、良い結末がない
これが最大の理由です。
歯の治療は、やり直すたびに歯を失っていきます。
小さな虫歯を詰める。数年後に再発してもう少し大きく削る。やがて神経を取り、被せ物になる。最後は歯が支えきれなくなって抜歯——。
この流れを、私たちは日常的に見ています。20代で始まったこのサイクルが、60代で行き着く先まで見えてしまうのです。
削った歯は元に戻りません。だからこそ、そもそも削らずに済むようにするしかない。予防を勧めるのは理想論ではなく、それ以外に歯を守る方法がないからです。
理由2:長く通っていただけるから
経営の話として、正直にお伝えします。
予防中心の医院は、目先の収入は少なくなります。しかし、患者さんが長く通ってくださいます。
治療だけの関係なら、治れば終わりです。しかし予防で通っていただければ、10年、20年とお付き合いが続きます。ご家族を紹介いただくこともあります。
一度に大きく稼ぐか、長く細く続けるか。
私たちは後者を選んでいます。これは善意だけの話ではなく、地域で長く医院を続けるための現実的な判断でもあります。
そしてこの選択は、患者さんの利益と一致します。ここが重要な点だと思っています。
理由3:自分がされたい治療をしたいから
最後は、感情的な話です。
私たち歯科医師も、自分や家族の歯は削られたくありません。親知らずも抜きたくないし、入れ歯にもなりたくない。
自分が受けたくない治療を、患者さんに勧める気持ちにはなれません。
「歯を削らずに済んだ」という結果は収入にはなりませんが、私たちにとっては良い仕事をしたという実感になります。この感覚がなければ、正直、この仕事は続けられないと思います。
患者さんが知っておくと役に立つこと
構造の話が続きましたので、実用的な視点をお伝えします。
予防を勧める医院は、短期的な利益で動いていない
定期検診やクリーニングを丁寧に勧める医院は、自ら収入を減らす選択をしていることになります。
もちろん、予防を入り口に自費診療を勧めるという形もありますので、一概には言えません。ただ少なくとも、「治療でたくさん稼ぐ」という発想とは逆の方向を向いていることは確かです。
説明に時間をかける医院も、同じ構造にある
保険診療では、処置には点数がつきますが、説明や相談の時間にはほとんど点数がつきません。
丁寧に説明すればするほど、時間あたりの収入は下がります。それでも時間をかけて説明する医院は、効率とは別の基準で動いていると考えていいと思います。
逆に、疑問を持ってよい場面もある
正直な話として、こちらもお伝えしておきます。
説明もなくいきなり大がかりな治療を提案された。自費診療ばかりを強く勧められた。質問しても明確な根拠が返ってこない。
こうした場合は、遠慮なく理由を尋ねてください。きちんとした医院であれば、なぜその治療が必要なのか、他に選択肢はないのかを説明できるはずです。
納得できなければ、別の医院で意見を聞くのも患者さんの正当な権利です。
この仕組みが変わらない限り
最後に、業界の課題にも触れておきます。
現在の保険制度は、基本的に「病気になってから治す」ことに報酬を払う設計です。予防への評価は少しずつ広がってきていますが、まだ十分とは言えません。
本来であれば、「10年間虫歯ゼロを達成した」という結果にこそ高い評価がつくべきだと思います。しかし今の仕組みでは、そうなっていません。
この構造がある限り、予防に力を入れる医院は経営的な不利を背負い続けることになります。
それでも予防を選ぶ医院が増えているのは、患者さんの意識が変わってきたからです。「痛くなってから行く」から「痛くならないように行く」へ。この変化が、医院の在り方も変えていきます。
予防歯科は、患者さんに支えられて成り立っています。定期的に通ってくださる方がいるからこそ、予防中心の医院は存続できます。
はら歯科クリニックについて
当院は、二宮町で予防歯科・歯周病治療・入れ歯(義歯)に力を入れている歯科医院です。
治療が必要なときは、もちろんしっかり治療します。ただ、その先に「治療が必要にならない状態」を目指すことを診療の軸に置いています。
自費診療についても、選択肢としてご説明はしますが、無理にお勧めすることはありません。保険診療の範囲で十分な場合は、そのようにお伝えします。
二宮駅北口から徒歩2分、駐車場も2台ご用意しています(満車の際は近隣の北口パーキングをご利用ください。受付で駐車チケットをお渡しします)。平日の最終受付は初めての方が16時、通院中の方が16時30分まで、土曜日も診療しています。
まとめ
今回お話ししたことを整理します。
収益構造について 日本の保険診療は出来高払いのため、治療をすれば収入が入り、虫歯を防いでも収入は入りません。予防が成功するほど、医院の収入は減る構造です。
予防歯科の経営について 予防は単価が低く、有資格者の人件費がかかるため、経営的には決して有利ではありません。
それでも予防を勧める理由 治療を繰り返した先に良い結末がないこと、長くお付き合いいただけること、そして自分が受けたい治療をしたいという思いからです。
患者さんへ 予防を丁寧に勧める医院、説明に時間をかける医院は、少なくとも短期的な利益とは違う基準で動いています。一方で、根拠のない治療の押し付けには、遠慮なく疑問をぶつけてください。
「歯医者は儲けたいから治療を勧める」——もしそう思われていたなら、少なくとも予防を勧める場面については逆であることを、お伝えしたいと思いました。
二宮町のはら歯科クリニックは、これからも予防を軸に、地域の皆さまのお口の健康を守ってまいります。
